大判例

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東京地方裁判所 昭和54年(ヨ)2342号

申請人

宮田久雄

右訴訟代理人弁護士

嶋田喜久雄

筒井信隆

筒井具子

被申請人

社会福祉法人恩賜財団済生会

右代表者理事

長澤泰治

右訴訟代理人弁護士

成冨安信

星運吉

中町誠

主文

一  申請人の本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  申請人

1  申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人は申請人に対し昭和五四年八月から本案判決の確定に至るまで毎月二五日限り金一八万九〇四七円を仮に支払え。

3  訴訟費用は被申請人の負担とする。

二  被申請人

主文同旨

第二当事者の主張

一  申請の理由

(被保全権利)

1 被申請人は、社会福祉の増進を図るため、全国に医療機関及び社会福祉施設の設置を目的として設立された財団であり、東京には東京都港区三田一丁目四番一七号に東京都済生会中央病院(以下「病院」という。)を設置経営している。

申請人は、被申請人に雇用されて病院の医事課に勤務するものであるが、昭和五四年八月一三日当時における三か月の平均賃金は一か月金一八万九〇四七円で、毎月二五日限り支払われていたものである。

2 被申請人は、昭和五四年八月一三日付をもって、病院の就業規則(以下「就業規則」という。)四五条一号、三号に基づいて、申請人を懲戒解雇した(以下「本件解雇」という。)として、以後申請人を従業員として取り扱うことなく、賃金も支払わない。

3 就業規則には次のような規定がある。

(一) 四五条

「職員が次に掲げる各号の一に該当すると認められたときは、懲戒解雇に処することができる。ただし、情状により減給、出勤停止又は職階剥奪若しくは職階降下に止めることができる。

(1) 刑事事件により罰金刑以上の刑に処せられたとき

(2) (略)

(3) 正当な理由なく職務上の指示命令に対し不当な反抗をなし、職場の秩序を紊したと認められるとき

(4)(以下略)」

(二) 四六条

「賞罰については賞罰委員会に諮り、院長がこれを定める。」

四七条

「賞罰委員会は院長を委員長とし、管理者側、労働組合側より選任する各3名で構成し、委員長が必要の都度これを招集する。

(2) 委員会の議決は出席委員の三分の二以上をもって決定する。ただし、可否同数の場合は委員長の決するところによる。

(3) 賞罰委員会の委員は、必要に応じて選任する。」

4 本件解雇は、次の理由により無効である。

(一) 申請人には就業規則四五条一号および三号所定の事由がない。

(二) 本件解雇の手続は、就業規則四六条、四七条に定める手続が履践されていない。

(保全の必要性)

1 地位保全の必要性

(一) 申請人が本件解雇時に属していた病院医事課では、コンピューターが導入され、診療費計算事務が手作業からコンピューターへと移行されている。診療内容も年々変化してきており、これに伴い保険点数の内容も変化し、支払基金に対する医療報酬請求事務も職場において日々作業に従事しつつ教育訓練を受けなければ習得も熟練もできなくなってきている。従業員として職場に配属されることにより技能の修得が容易となる。

(二) 病院には、労使が賃金の五パーセントを拠出した積立金を利用する済生会退職者遺族共済制度があり、従業員は退職時に一時金の交付を受けたり、金三〇〇万円を限度として貸付を受けることもできる。また、従業員及びその家族は職員医療費減免規定により医療費の優遇措置を受けることができ、病院内には職員互助会があり、従業員であれば誰でも加入でき、旅行、慰安会などに参加したり、海の家、山の家などの原告施設の斡旋を受けることができる。さらに、従業員であれば、厚生年金保険、雇用保険、健康保険の被保険者となって保険給付を受けることができる。

(三) 以上のように、従業員としての地位に伴い、病院から受けることのできる利益は、賃金と同等の価値を有する利益であり、賃金が賃金請求権として法的利益が認められるのと同様にこれらの利益も一種の法的利益として認められるものである。地位保全の仮処分命令が任意の履行を期待する仮処分であるとしても、被申請人が任意に履行する場合もあり得るのである。現在における労働者と使用者の関係は、一方が賃金を支払い、他方が労務を提供するというような単純な関係ではなく、賃金支払と労務提供とを基本的な関係として、その基盤の上に、労務者にとっては一生の生活を左右する事実上、法律上の利益を享受し得る関係にある。したがって、賃金仮払仮処分とともに地位保全の必要性が存するものである。

2 賃金仮払いの必要性

(一) 申請人は、妻と子供二人(長女小学校五年生、長男同四年生)の家族で、妻も就労して毎月手取り約金九万円の収入を得ているが、これはマンション購入代金の支払いに殆んど充てられ、一家の生活費は専ら申請人の得る被申請人からの賃金によって賄われていたが、本件解雇によりこれが得られなくなったため、全済生会労働組合及び全済生会労働組合中央病院支部(以下「支部組合」という。)からの借入金をこれに充てており、これも本件仮処分命令の発令とともに返済しなければならない約定となっている。

(二) 被申請人は申請人の総資産として解雇予告手当金、共済掛金を受領できると主張しているが、これはいずれも解雇を前提とするものであるから、申請人としてこれを受領できないのは当然である。また、グループ保険の配当金はすべて本件解雇前に受給されたものである。電話は他人名義であり、雇用保険金は仮給付で返還が予定されているものである。

普通預金と賃金は受領しうるものであるが、金額的に低いもので賃金仮払いの必要性を覆すほどのものではない。

被申請人は申請人の妻宮田ひろ子の総資産として、長期掛金の存在を主張しているが、これは地方公務員等共済組合法に基づく毎月の掛金である。労働金庫一か月三六八九円は東京都職員労働組合の組合費であり、グループ保険、生命保険などは保険の掛金である。被申請人は共済組合にも労働組合にも、生命保険にも加入せずに、すべてが貯蓄できるのでこれらは総資産であると主張しているようであるが、この現実的不利益は大きい。

純粋に資産といえるものは、積立金一か月二〇〇〇円二口、ホームプラン一か月三〇〇〇円の預金であるが、金額的にも僅かであり、賃金仮払いの必要性を覆すほどのものではない。

マンションを申請人と妻とで共有しているが、持家は庶民のささやかな願望であり、確かに売却すれば売却益を生活費に充てることはできるが、その額はローンが残っているために僅かであり、またローン代を生活費に回すことも可能とはいえ、その代りに毎月の家賃を払うこととなり、結局、賃金仮払いの必要性を覆すものとはなり得ない。

二  申請の理由に対する答弁

(被保全権利)

1 申請の理由1のうち、申請人が本件解雇後も被申請人の従業員であるとの点は否認し、その余の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3(一)及び(二)の事実は認める。

4 同4(一)及び(二)の事実は否認する。

(保全の必要性)

1 地位保全の必要性はない。

病院の一事務員であった申請人と被申請人の雇用形態が就労請求権を認むべき特殊な形態でないことは明らかである。申請人はコンピューター技術の習得等について主張しているが、右操作は新人でも一、二か月でマスターできる程度のものであるから、「技術の習得」のための就労請求権など到底認め得ないものである。申請人の主張するその余の福利厚生関係等の利益を仮処分段階で認めなければならない必要性は全くない。

2 賃金仮払いの必要性はない。

申請人の妻は目黒区に職を得ていて一か月金一三万一六五二円の収入を得ていて、これに賞与をも加味すると、その収入だけで既に東京都の四人家族の標準生計費をほとんど満たすか、あるいは年度によってはこれを大巾に超えていることが明らかである。

これに加えて、申請人本人も健康で十分に労働能力を有するものであるから、一家の生活の維持のために経済的努力をなすべきである。

申請人は、購入マンションのローン代金の支払いを主張しているが、これはある意味では貯蓄的性格を有するものであり、場合によってはマンションを売却し、生活費に充てることも可能であるから、仮処分の必要性判断においては冗費としか評しようのないものである。

さらに、被申請人は申請人に対し、昭和五四年八月一日から同月一三日までの賃金(総支給額)金八万八四四一円プラス金三〇〇〇円(当直手当)、解雇予告手当金一九万五六〇円の合計金二八万二〇〇一円の弁済提供をしたが、申請人はその受領を拒否している。

さらに、同年九月一〇日、申請人から被申請人に対し、雇用保険金の受給のため離職票が必要であるとして証明願の申出があったので、被申請人は同日申請人に離職票を交付している。

なお、申請人と申請人の妻の総資産は次のとおりである。(略)

三  被申請人の主張

1  被申請人は、申請人に対し、昭和五四年八月一三日付で、就業規則四五条一号、三号に基づき、懲戒解雇の意思表示をした(本件解雇)。

2  本件解雇は以下の理由によりなしたものである。

(一) 申請人の刑事事件

(1) 申請人は、昭和五四年一月八日午後一一時三〇分頃、東京都港区白金三丁目一番六号飲食店「ふじ」横路上において、飲酒のうえ、酒店経営屋代良助所有の空瓶約三〇本を持ち上げてこれを地面に叩きつけて損壊したものであるが、いかに酔余のこととはいえ、深夜、粗暴極まりない行為で、附近住民に少なからぬショックを与えた。

(2) さらに、申請人は、前同日午後一一時四〇分頃、前同所において、警ら中の警視庁高輪警察署巡査楠木義之から職務質問を受けるや、同巡査に対し語気荒く「この野郎そんなの知らねえよ。」と居丈高に否認し、その場を立ち去ろうとしたが、同巡査が後を追い、さらに質問を続けてきたのに対し、大声で「何故、俺が行く必要があるのだ。」などと怒鳴り、いきなり同巡査に右手拳で殴りかかった。同巡査が辛うじてこれを避けると、その制服の襟首をつかんだので、同巡査が申請人の手首を押えると、申請人はこれを激しく振りほどこうとして、同巡査が制服上衣右ポケットに携帯中の携帯受令機のイヤホンを引きちぎった。

申請人は、同行していた二人の説得で辛うじて暴行を止め、前記(1)の現場に戻ったところ、同所にいた付近の喫茶店経営瀬尾夫婦らに対し、語気荒く「おまえがみたのか、証拠があるのか。」とくってかかる始末であって、相変らず前記(1)の所為を否認し続けていた。

そこで、同巡査が申請人に対し「止めろ」と制止すると、申請人は、いきなり同巡査に近づき「馬鹿野郎、若いくせに生意気だ。」等と語気荒く申し向けながら、同巡査の左顔面を右手拳で一回殴打し、さらに暴行を加えようとしたが、連れの二人に辛うじて制止された。

その間、同巡査は全く挑発的言動など行わず、むしろ無抵抗といってもよいほどの紳士的態度であった。

申請人は、同巡査から公務執行妨害の現行犯として逮捕する旨を告げられると、再び「この野郎、お巡り。」などと怒鳴り抵抗しようとしたが、現場に駆けつけた警察官数名に制せられ、現行犯逮捕されるに至った。

その結果、申請人は、右楠木巡査に対する左顔面殴打行為により、暴行罪で略式命令を請求され、罰金七万円に処せられている(以上を以下「本件刑事事件」という。)。

(3) 申請人の前記犯罪行為は異常かつ悪質なもので(典型的な公務執行妨害の事案)、単に酒を飲んでの偶発的なものと評価しさることはできない。

被申請人の病院はその総合病院(都下で屈指の総合病院である。)という性格上、事業の円滑な運営の確保と並び、その廉潔性の保持が広く社会から要請ないし期待されているといっても過言ではない。換言すると、職場外での職務遂行に関係のない職員の所為であっても、一般私企業の従業員に比較すれば、より広く、より厳しい規制が当然許容されて然るべきである。

申請人の前記事件は、病院内に風聞としてかなり広がり、広く職員の動揺を招いたほか、犯行現場の付近住民へはもとより、入院患者の一部および外来患者の一部にもその風聞が広がり、病院の社会的信用の失墜は明らかである(特に、申請人が外来患者の受付業務担当であったことも一般職員に比し、失墜の度合いは大である。)。

(二) 本件刑事事件による申請人の無断欠勤

(1) 申請人は、本件刑事事件に伴ない、昭和五四年一月九日から同月一九日までの間、無断欠勤している。その直接の理由は、本件刑事事件による逮捕、勾留という公権力の行使によるものであるとしても、それは、申請人自身の弁解の余地のない犯罪行為に基づき発動されたもので、逮捕、勾留が違法、不当でないことが明らかな右欠勤を申請人の責に帰すべき欠勤として、使用者である被申請人がこれを強く非難し、本件解雇の一つの理由とすることは当然である。

(2) 右の欠勤について病院に何らかの連絡があったのは、一月九日、一〇日の二日だけで、その後は同月一九日まで全く何の連絡もない無断欠勤である。

(3) 申請人の右欠勤を有給休暇とみることはできない。すなわち、そもそも年次有給休暇が成立するためには、事の性質上労働者が事前に時季を特定して休暇をとる旨を使用者に通告しなければならない(事後では使用者が時季変更権を行使する余地がなくなってしまう。)ところ、申請人からは事前の請求はないので、有給休暇の成立はあり得ない(申請人の妻からの電話は連絡程度のもので、有給休暇請求でないことは、書面を添えた正式のものでないこと、日時の特定もない曖昧なものであること及び申請人がみずから後に休暇届を提出していることから明らかである。)。なお、就業規則一九条に定めるとおり、原則は、有給休暇の届出は前日までの事前届出であり、当日の電話による代行届出等の措置は急病など本人の責によらない例外的なやむを得ない場合の救済的措置にすぎない。

(4) 病院では、過去において、やむを得ない理由のある欠勤については、本人に有給休暇の日数が残っている場合、病院の裁量によって、事後に有給休暇に振り替える措置をある程度認めていたが、その基準は、欠勤期間が短いこと、欠勤の理由が明らかであること(当然、欠勤理由が病院にとって振替えを是認しうるものであることが前提である。)、速やかな欠勤の届出があること、本人の勤怠状況が悪くないこと等の総合判断によっている。

申請人の前記欠勤は、右基準からみると、欠勤期間が一〇日以上に及んでいること、後記のように、申請人が病院の何回かにわたる欠勤の理由調査に全く応ぜず、遂に欠勤の真の理由を明らかにしなかったこと、欠勤届が病院側に届いたのが、同年一月二二日であること、申請人の勤務状況が後記のとおり極めて劣悪であること等すべての点で右基準に当たらないので、振替えを認めることなく、あくまで無断欠勤とした病院の措置は極めて合理的なものである。

(三) 病院側の前記(二)の欠勤理由を説明するよう指示したことに対する申請人の態度

(1) 申請人は前記(一)(1)の所為の後、警ら中の楠木巡査の姿を認めるや現場を小走りで立ち去り逃走を試みているところから、当時、申請人としては意識は明瞭で、右所為の違法性を認識していたものというべく、記憶がないなどということは単なる弁解にすぎない。

(2) 申請人は、本件刑事事件につき、警察及び検察庁での取調べでも否認あるいは言逃れを続けて反省の色を全く示していないばかりでなく、病院側の上司から前記(二)の欠勤理由の説明を求められても、これに公然反抗して拒否し、本件刑事事件を否認、秘匿し続け、本件解雇に至るまで報告はもとより事実を認めることさえしなかった。

(3) 一般に、労働者は、使用者といったん労働契約を締結した以上、使用者に対し誠実に労務を提供すべき義務を負い、使用者は、労働者の欠勤(労務の不提供)について、それが正当な事由によるやむを得ないものであるほか、いわれなくその欠勤を受忍すべき義務を負うものではない。したがって、使用者は、労働者が欠勤した場合、その事由について納得の行くよう説明を求めることができ、労働者はこの指示に応ずる義務を当然に負っている。

しかるに、申請人は、病院側の加藤医事課長の説明指示及び数度にわたる文書による厳重な指示にもかかわらず、単に私用とだけ答えるだけで、実質的な説明を全く拒否し続け、本件刑事事件の説明をなすことは本件解雇に至るまで全くなかったことは前記のとおりである。

(四) 申請人の勤務状況等

(1) 申請人の欠勤等の状況

申請人の欠勤、遅刻、早退、職場離脱等の状況は、次のとおりである。(略)

(2) 有給休暇等請求時の手続の不遵守とたび重なる欠勤

(ア) 申請人の欠勤等は前記(1)のとおりであり、その特徴は、

(a) 毎年早々に同年の有給休暇、特別休暇を消化してしまい、その後は欠勤を続発させる。

(b) 有給休暇、特別休暇及び欠勤について、事前の届出は皆無に近く、当日電話等によって連絡してくるか、あるいは何の連絡もしないで無断欠勤するのが大半である。

(c) したがって、やむなく本人が事前に提出すべき届出を他人が代って記入、提出し、あるいは後に催足して申請人に提出させたものが大半である。

(d) 有給休暇及び欠勤については、休日、祭日に接続して前後(特に月曜日)にとる例が大半である(いわゆる「月曜病」)。

申請人の右のような行為は、病院の他の従業員には全く例をみないものであった。

(イ) 病院では、就業規則一九条五号において、有給休暇を得ようとするときは、予め事由を付して病院に願い出なければならない旨定め、届出用紙も指定していた。

右の場合に限らず、病院の職員が欠勤、遅刻、早退するときは、予めその事由を付して所属長に届けを提出し(就業規則二八条、二九条)、また、職場離脱をする場合にも予め届け出て所属長の許可を得なければならないものである。

ところが、申請人の欠勤等の状況は前記(1)のとおりであって、極めて不良であるうえ、有給休暇、欠勤については前記のとおり所定の手続を遵守せず、遅刻、早退等についても、予めの届けがないばかりでなく、事後の届けさえしないことがしばしばであり、早退について届けをした場合でも、早退届を勝手に所属長の机上に置いて、そのまま退去してしまうこともあった。

(ウ) 病院における外来受付という申請人の担当部署は、不断に来客があって常時その応待を要する部署であり、担当者が欠勤すると業務に多大の支障を生ずること及び月曜日は特に多忙な日であること等々は申請人自身十分に承知していたところであり、それにもかかわらず、前記(1)のとおり欠勤等をするということは単なる労務不提供以上のものであり、病院に対する加害行為とも評価しうるものである。

(エ) そこで、病院は、前記(1)のように申請人の無断欠勤、遅刻、早退、職場離脱が余りにも甚だしいので、申請人に対し、再三にわたり口頭あるいは文書によって勤務態度を改善するよう注意したが、その勤務態度には何の変化もみられなかった。さらに、病院は申請人に対し、昭和五一年九月二八日、文書をもってその勤務態度を改めるよう申し入れたが、申請人の勤務態度は全く改善されなかった。その後も病院は申請人に対し、警告ならびに通告書をもって再三再四注意を促してきたが、申請人の勤務態度は一向に改善されず、遂に前記(一)の本件刑事事件が昭和五四年六月中旬頃になって明るみに出たものである。しかるに、申請人はその後も欠勤、無断遅刻、無断早退を続けたため、病院としては、申請人を病院の職員としてこれ以上とどめておくことは、病院の正常な業務遂行上支障が生じ、かつ善良な他の職員並びに患者である病院利用者に対しても悪影響を及ぼしかねないことから、不可能であるとの結論に達したものである。

(3) タイムレコーダーの打刻忘れ等

病院は、昭和五一年六月一日からタイムレコーダーを設置し、各職員の勤務状態をタイムカードに記録しているが、始業時刻は午前九時、終業時刻は午後五時である(但し、土曜日の終業時刻は正午である。)。

ところで、申請人はタイムカードに関する病院の諸々の規則(打刻義務、必要事項、記載義務、打刻忘れ等の際の届出義務等)を遵守せず、これを怠ること甚だしいものがあった。

病院は申請人に対し、再三再四口頭あるいは文書で注意を与えたが、申請人は全く反省することなくすべての注意に対しこれを故意に黙殺してきた。特に昭和五四年六月だけをみても、打刻忘れだけで六回に及んでいる。

申請人の右のようなタイムカードの打刻忘れ、記載忘れ等は、単に服務規律違反だけにとどまらず、給与計算や人事考課業務にも大きな混乱、支障を来たすことは明らかである。

(4) 宿直業務無断放棄

申請人は、前記(1)記載のとおり、昭和五一年一一月二六日の宿直業務を何ら正当な理由もなく全く無断で放棄し、これに対する上司の加藤医事課長の注意に対しても虚偽の弁解をするだけで、全く反省の色を示していない。

(5) コピー用紙の盗用

申請人は、昭和五〇年一〇月二〇日頃、西村馨とともに病院のコピー用紙を無断で使用し、病院から警告を受けている。その後右のコピー用紙代金が弁償されたかどうかも疑わしく、仮に弁償されたとしても、病院からの指摘を受けた後のことであれば、無断盗用の事実も責任も払拭されるものではない。

(6) 院内マイクの無断使用

申請人は、昭和五一年五月二六日、その使用を規制されている院内マイクを無断使用し、病院から警告を受けている。

(7) その他申請人の勤務態度一般

(ア) 上司に対する公然たる反抗行為

申請人は、上司(特に加藤医事課長、北島主任)に対し、公然と反抗し、場所を弁えず大声をあげ、文字通り職場の秩序を乱していた。申請人のこのような病院内での反規律的、反秩序的行為と本件刑事事件の対象となった粗暴な行為とは、それ自体行為の性格において共通するところが甚だ多く、いずれも申請人自身の属性の発現であるとみられ、両者を無関係のものと解することはできず、不可分一体のものである。

(イ) 患者に対する態度

申請人の患者に対する態度は、極めて横柄で乱暴なものであり、申請人の服装等の要因も加わり、その評判は極めて悪いものであった。

(ウ) 他の病院職員に対する態度

これも患者に対する態度と同様、極めて不親切かつ乱暴なもので、トラブルを起したことも再三である。また、前記(1)のとおりの勝手な規則違反の当直明け早帰りや、勝手気ままな欠勤は同僚のひんしゅくをかっていた。

(エ) 勤務中の無断離席と雑談

申請人は、勤務中上司の許可を得ない離席が多く、また雑談も多く、しばしば上司が注意しても改まらなかった。

(五) 以上(一)ないし(四)のとおり、申請人には、病院職員としては不適格な、素行不良(本件刑事事件)があり、しかも、数々の違法行為、公然たる反抗、ルーズな勤務能度、数々の服務規律違反、反則行為があって、上司らからのたび重なる注意、警告にもかかわらず、一向に反省する様子を示さなかったもので、これらは就業規則四五条一号及び三号所定の懲戒解雇事由に該当するので、本件解雇の意思表示をしたものである。

3  本件解雇は以下の手続に従ってなしたものである。

(一) 本件解雇は昭和五四年八月一一日適法に開催された賞罰委員会に諮り、院長が決定したものであるが、病院の就業規則四六条に定める賞罰委員会は、同条の規定自体から明らかなとおり、病院院長が賞罰を行うに際して労使双方の意見を聴取するための単なる諮問機関にとどまるので、運用もそのようになされてきている。したがって、賞罰委員会の答申そのものに病院院長は何ら拘束されることなく、自己の判断に基づき処分が自由にできるわけであるから、その点において同委員会そのものが処罰の有効要件ではない。

(二) 病院には従業員の過半数で組織された済生会中央病院労働組合(以下「新労」という。)が存在するので、労働基準法三六条、九〇条等の精神に則り、賞罰委員会の組合側選任委員三名はいずれも新労からの委員で構成すべきものとして、昭和五二年以来運用されてきた。

しかしながら、本件解雇については支部組合の組合員の身分にかかわる重大問題であることを考慮し、特に併存組合の組合員数の比率(新労が支部組合の約七倍前後と推測される。)をあわせ慎重に検討のうえ、委員長たる院長が新労二名、支部組合一名の比で委員の招集に及んだものである。組合員の比率、従来の運営からみて、むしろ支部組合を優遇(申請人に有利)した運用であり、これをもって本件解雇手続が違法となるようなことはあり得ないものである。

(三) 前記賞罰委員会に招集を受けた支部組合の委員が出席しなかったのは、一方的な同委員会審議権の放棄であり、これをもって同委員会の手続違反となるものではない。一日の余裕をもって同委員会の招集通知を行うものも従来からの運営どおりで、何らの問題もない。支部組合の委員長金子有之自身が本件刑事事件の関係者の一人であり、事情を熟知していたもので、支部組合としての対応策を決めるにしても一日の余裕では時間的余裕がないということはあり得ない。仮に、そのことについて言い分があるのであれば、賞罰委員会に出席して意見を述べるべきであって、一方的な欠席は何ら正当な理由があるものではない。

4  本件解雇の意思表示が懲戒解雇としての効力を有しないものであるとしても、通常解雇の意思表示としては有効である。すなわち、

申請人の前記本件刑事事件をはじめとする従来の反規律的、反秩序的非違行為及び勤務態度等からして申請人の病院従業員としての適格性のないことは顕著であり、双方の信頼関係の破壊も決定的となっていて、もはや申請人を病院内に留め置くことは不可能である。

そして、申請人の右の行為等は左記就業規則一〇条三号、五号に該当すること明らかであり、かつ被申請人は申請人に対し本件解雇の意思表示をした昭和五四年八月一三日付で解雇予告手当の提供をしているから、通常解雇の効力は同日直ちに生じている。

仮にそうでないとしても、右解雇の意思表示をした昭和五四年八月一三日から三〇日を経過した時点において通常解雇の効力が生じている。

一〇条

「職員が次に掲げる各号の一に該当する場合は、三〇日前に予告するか又は労働基準法第一二条に規定する平均給料の三〇日分を支給して解雇する。ただし、(以下略)

1、2(略)

3 業務上の諸規程、若しくは指示命令に違反し、職場の秩序を紊したとき

4 (略)

5  勤務成績又は能率が甚だしく不良で、就業に適しないと認められるとき」

以上

四  被申請人の主張に対する申請人の認否、反論

1  被申請人の主張1のうち、就業規則四五条三号に基づくとの点は否認し、その余の事実は認める。右三号に基づく懲戒解雇の意思表示はなく、これを本件解雇の理由とすることはできないものである。

2(一)  同2(一)(1)のうち、申請人が空瓶約三〇本を持ち上げて割ったことは認めるが、その余の事実は否認する。申請人の右空瓶を割った行為は酔余の偶発的なものである。

同(2)のうち、楠木巡査に挑発的言動が全くなく、むしろ無抵抗といってよいほどの紳士的態度であったこと、申請人が同巡査から公務執行妨害の現行犯として逮捕する旨告げられた際、「この野郎、お巡り。」等と怒鳴り抵抗しようとしたが、現場に駆けつけた警察官数名に制せられ、現行犯逮捕されたこと及び申請人が楠木巡査の左顔面を一回殴打した行為により暴行罪で略式命令を請求され、罰金七万円に処せられたことは認めるが、その余の事実は否認する。申請人の同巡査に対する暴行は、酔っていたこともあり、つかまれていた手を振りほどこうとして大きく手を振った際、その手が同巡査の顔面に当たったものである。

同(3)の事実は否認し、その主張は争う。

(二)  同(二)(1)のうち、申請人が本件刑事事件による逮捕、勾留により昭和五四年一月九日から同月一九日までの間欠勤したことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

同(2)のうち、一月九日と一〇日に連絡したことは認めるが、その余の事実は否認する。一月一〇日には申請人の妻が一週間の有給休暇の申請をしている。そして、同月一七日には申請人の妻から書留郵便にして休暇届を郵送したが、宛名を誤ったため到達が遅れてしまった。勾留されている申請人としてはでき得る限りのことをなしているのである。

同(3)の主張は争う。

同(4)の主張は争う。病院では以前から電話での連絡を認めており、有給とする場合は連絡を受けた者が代行して有給休暇届を作成、提出して有給休暇扱いとし、そうでない場合には欠勤としていたものである。この場合、休暇願の書類が後日申請人あるいは代行者によって作成されていることがあるが、これは当日電話連絡を受けた者が書類を作成しなかったような場合、指摘されれば申請人が作成したり、あるいは上司、同僚が作成したものである。

(三)  同(三)(1)の事実は否認する。

同(2)の事実は否認する。申請人として欠勤理由を説明しなかったり、黒田事務長からの調査に対し本件刑事事件を否認しているが、やむを得ないものである(自己に不利益なる事実の供述拒否権)。

同(3)の主張は争う。

(四)  同(四)(1)のうち、

(欠勤)

昭和四八年八月二七日、九月二一日、一〇月五日、二〇日、昭和四九年四月一〇日、一五日、一八日、五月九日、一三日、二一日、二二日、六月三日、一七日、七月八日、八月二六日、九月九日、昭和五〇年八月三〇日、九月一日、二九日、三〇日、昭和五四年一月六日、三月二六日のいずれも欠勤したことは認める。

(無断欠勤)

昭和五〇年七月一四日、八月八日、九日、二三日、二九日、九月二七日、一〇月二二日、昭和五二年六月一日、三日、二七日、一〇月一七日、一八日、昭和五三年六月八日、七月六日、八月一八日、一九日、一〇月一八日に欠勤したことは認めるが、無断ではなく、電話で連絡している。連絡を受けた者がその旨の書類を作成したり、後日申請人が書類を作成している。

昭和五〇年一一月四日、七日、一四日、二六日、一二月一日、一〇日、一六日、二七日、昭和五一年一月二四日、二月三日、二〇日、二一日、二三日、二八日、三月一三日、四月五日、一二日、一三日、二三日、八月二〇日、九月六日、一一月五日、八日、一五日、一二月一日、八日、一四日、一六日、昭和五二年一月一一日、二四日、二月一日、一四日、一五日、二四日、三月一日、一七日、二四日、四月七日、五月九日、七月二二日、八月五日、二二日、九月八日、二八日、一一月八日、九日、一〇日、二一日、一二月一日、五日、六日、一九日、二二日、昭和五三年一月五日、一九日、二月六日、二〇日、三月三日、四月一一日、二六日、五月四日、一七日、一八日、六月七日、七月二五日、一一月一日、七日、八日、二七日、一二月一一日、二二日、昭和五四年一月五日、三月一二日、五月一四日、一五日、六月四日、八月七日のいずれも有給休暇として取り扱われていることは認める。当日、電話で連絡し、連絡を受けた者がその旨の書類を作成したり、後日申請人が書類を作成したことは前同様である。

昭和五一年五月七日、六月一四日、一五日、二八日、二九日、三〇日、七月一日、八日、八月七日、九日、一〇日、一一日、一〇月二七日、昭和五三年三月一七日、昭和五四年一月二〇日に欠勤したことは認めるが、当日電話で連絡している。

昭和五一年七月一二日、二〇日、二四日は欠勤ではなく、タイムレコーダーの打刻忘れである。

昭和五一年一一月二〇日は有給休暇の扱いとなっているものである。

以上のとおり、被申請人の主張する無断欠勤についてはすべて電話で連絡していて無断ではない。前記のとおり、病院では以前から電話での連絡を認めていて有給休暇の扱いとしていたものである。

(無断職場離脱)

昭和五〇年四月一日、二日、三日は支部組合主催の時間内職場集会に参加したものである。

同年五月六日、七日、九日は同組合主催の昼休集会に参加したものである。

昭和五一年五月二八日は都労委における審問(都労委昭和五〇年(不)第六一号事件)に参加人として出席したものである。

同年七月二六日、八月三一日も右同様である。

同年九月二日は都労委における審問(都労委昭和五一年(不)第八一号事件)に参加人として出席したものである。

同年九月三日は東京地裁昭和五一年(ヨ)第二三二三号事件傍聴のためである。

同年一一月九日は支部組合主催の執行委員会出席のためである。

同月二六日は疎甲第一七号証のとおり職場放棄ではない。昭和五二年二月四日も同様である。

昭和五二年四月二二日は東京地裁昭和五一年(行ウ)第二〇六号事件の傍聴のためである。

同年五月六日は都労委昭和五二年(不)第二九号事件の調査期日に参加人として出席したものである。

同月一七日、二四日は前記東京地裁昭和五一年(行ウ)第二〇六号事件傍聴のためである。

同年七月一一日は中労委昭和五二年(不再)第二五二六号事件に参加人として出席したものである。

同月一五日は前記東京地裁昭和五一年(行ウ)第二〇六号事件傍聴のためである。

同月二九日は職場放棄をしていない。

同年九月三〇日は前記中労委昭和五二年(不再)第二五二六号事件に参加人として出席したものである。

同年一〇月二〇日は前記東京地裁昭和五一年(行ウ)第二〇六号事件の和解期日に参加したものである。

同月二八日は前記中労委昭和五二年(不再)第二五二六号事件の審問に参加したものである。

同年一二月九日は中労委昭和五二年(不再)第五八号事件に参加人として出席したものである。

昭和五三年一月一二日は前記中労委昭和五二年(不再)第二五二六号事件の審問に参加したものである。

同年六月二〇日は東京高裁昭和五三年(行コ)第二号事件傍聴のためである。

同年七月一〇日、九月一一日、一〇月二三日は東京地裁昭和五三年(行ウ)第五五号事件の傍聴のためであり、同年一二月二〇日は同事件の和解期日に出席し、同月二五日は同事件の口頭弁論期に出席したものである。

以上はいずれも支部組合の指令に従って出席したもので、出席したのは申請人だけではなく、他の支部組合員も出席しており、被申請人と同組合間に地方裁判所、東京都地方労働委員会、中央労働委員会への出席をめぐって紛争が生じていたとはいえ、これらを申請人の就業態度の否定的事例として主張するのは誤りである。

(早退)

昭和五一年八月二日、二七日、九月二七日、一一月一八日、二二日、一二月一八日、二八日、昭和五二年一月一三日、二月一二日、二八日、五月二日、六月一八日、八月三日、二七日、九月三日、二一日、一二月七日は早退ではなく、タイムレコーダーの打刻忘れである。

昭和五二年六月二八日、七月三〇日、八月二日、一〇月二〇日、二七日、一一月二六日、一二月九日、昭和五三年三月二七日、七月一八日、昭和五四年六月二五日のいずれも早退していることは認めるが、すべて予め届け出ている。

昭和五一年七月二六日、昭和五二年六月二八日、八月二日、一〇月二〇日、一二月九日、昭和五三年七月一八日は前記の職場離脱を早退として取り扱われたものである。

昭和五二年七月三〇日、一〇月二七日、一一月二六日、昭和五三年三月二七日、昭和五四年六月二五日はいずれも口頭でその旨の届出をしている。

昭和五二年一月三一日、八月一二日、一一月四日はいずれも早退ではない。いずれも当直明けの日で、当日はタイムカード出勤の項に打刻するのではなく、退出の項に退出時刻を打刻するのであるが、申請人はこれを誤って出勤の項に打刻したため、あたかも早退のごとき表示となってしまったものである。

(遅刻)

昭和五一年八月二四日、九月二九日、昭和五二年一月五日、二月二一日、四月二〇日、昭和五三年三月二三日、二四日、二五日、四月一九日、二二日、六月一二日、一一月二四日、昭和五四年一月二八日、四月二五日に遅刻したことは認めるが、数分の遅刻は別として予めその旨の連絡はしている。

昭和五二年一月一八日、一一月一九日は当直明けであって、前記のようなタイムレコーダーの打刻の誤りである。

(有給休暇、夏期休暇)

昭和五〇年一二月四日、一九日、二〇日、昭和五一年九月七日、昭和五二年二月一九日、昭和五三年八月一六日、一七日、昭和五四年七月七日の休暇は認める。

(本件刑事事件による逮捕、勾留中の期間)

昭和五四年一月九日申請人の妻から申請人が休む旨の連絡をしたこと、同月一〇日再度申請人の妻が同様の連絡をしたこと、同月一二日、一三日、一六日、一七日電報が来たこと、同月一七日内容証明郵便が来たこと及び同月一八日にも電報が来たことは認める。いずれも逮捕、勾留中であったため予め届け出ることなどできなかったものである。

同(2)の事実は否認し、その主張は争う。

同(3)のうち、申請人のタイムレコーダーの打刻忘れは被申請人主張のとおりであるが、昭和五三年二月九日黒田事務長から訓告を受けて後は次のとおりである。

昭和五三年二月分については、不打刻四回であるが、すべて届け出ている(催促されたものではない。)。

同年三月分については、被申請人のいうように、五回不打刻、四回未届であるとしても、以後次のとおり未届は漸減している。

同年四月分 一回 届出(後日でなし。)

同年五月分 一回 届出

同年六月分 二回 届出一回

同年七月分 三回 届出二回

同年八月分 三回

同年九月分 四回 届出三回

同年一〇月分 一回 届出

同年一一月分 一回 届出(自発的)

同年一二月分 三回

昭和五四年一月分 一回 届出

同年二月分 二回 届出

同年三月分 一回 届出

同年四月分 二回 届出

同年五月分 なし

同年六月分 五回 届出(自発的)

同年七月分 二回 届出(自発的)

右のとおりであって、確かに申請人にはタイムレコーダー不打刻はあるものの届出をしているもので、悪質な服務規律違反というようなものではない。

また、宿日直表示の記入もれもあるが、これは病院の勤務カード(疎乙第二一号証の一ないし七六)からも明らかなように、右の記入がなくとも右カードにより当該の日が宿日直の日であることは容易に判明するものであるし、タイムレコーダーに関する届出用紙に宿日直の旨と退出する時間を記載して課長に提出することになっているのであるから、タイムレコーダーへの記入はさほど重要なものではない。

同(4)の事実は否認する。

申請人は、当日上司である加藤医事課長に子供の入院を理由に当日の宿直業務の変更を申し出ている。かかる場合、直接の宿直命令権者である同課長が他の者に宿直を命ずべきであって、申請人がみずから代替者を探すべきものではない。

同(5)のうち、申請人らが被申請人主張のように病院のコピー用紙を使用したことは認めるが、その余の事実は否認する。

右は、申請人と共にコピーをとった西村がその使用枚数を記入するに際し、公用と私用の区別を誤って記入したことによりその代金を支払うのが遅れただけのことであり、現に後にこれを支払っている。

同(6)の事実は否認する。

病院内のマイクは午後五時以後は当直者が操作することとなっており、申請人はこの当直者に対し組合大会招集についてマイクの使用を依頼したことはあるが、現実にマイクを操作したのはその当直者であって、申請人ではない。

同(7)の事実はいずれも否認する。

(五)  同(五)の事実は否認し、その主張は争う。

3  同3のうち、院長が支部組合に対し、昭和五四年八月一一日賞罰委員会を開催すること、これに支部組合から委員一名を選任出席するよう通知してきたこと、予定どおり右八月一一日に賞罰委員会が開催されて本件解雇について審議されたが、支部組合の委員は出席しなかったこと、右賞罰委員会には新労から二名の委員が出席していたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

賞罰委員会の委員長である病院院長は、昭和五四年八月一〇日、申請人の所属する支部組合に対し、翌八月一一日賞罰委員会を開催する旨通知してきた。これに対し、支部組合は、申請人からの事情聴取の必要もあり、委員の選任とか支部組合としての態度を決めるには時間的余裕がない旨回答し、同委員会の開催延期を要請した。しかしながら、院長は、支部組合の右要請を理由なく拒否し、同委員会を予定どおり八月一一日に開催した。

賞罰委員会は労働組合側より選任する三名の委員がその構成員となる旨定められていることは前記のとおりであるが、院長は支部組合に対して一名、他組合である新労に対して二名を選任するよう通知してきた。何故に支部組合が一名で、新労が二名となるのか、その基準が明らかでない。

かくして、八月一一日に開催された賞罰委員会には、支部組合からの出席者はなく、新労が選任した二名の委員が出席しただけである。

したがって、右賞罰委員会は、

<1> 「労働組合側より」選任された委員が出席しているとはみられない点

<2> 労働組合側より選任された「三名」の委員が出席していない点

において、就業規則に定める適法な賞罰委員会とはいえない。

4  同4のうち、就業規則一〇条の規定が被申請人主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。

本件解雇はあくまでも申請人が就業規則四五条一号所定の「刑事事件により罰金以上の刑に処せられたとき」に該当するとの理由でなされたもので、服務規律違反、反則行為を理由として解雇されたものではない。そして、通常解雇を定める就業規則一〇条三号、五号と申請人の本件刑事事件とは重なり合うことはない。したがって、本件懲戒解雇の意思表示の中に就業規則一〇条三号、五号を理由とする通常解雇の意思表示が含まれているとか、あるいは前者から後者への転換が可能であるとかいうことはあり得ないものである。

5  以上のとおり、本件解雇は就業規則所定の解雇事由もなく、かつその所定の手続にも違反してなされたもので、専ら組合活動家である申請人を病院から排除する目的でなされたもので無効である。

第三証拠(略)

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりである。

理由

(被保全権利の存否=本件解雇の効力について)

一  申請の理由(被保全権利)1のうち、申請人が本件解雇後も被申請人の従業員であるとの点を除くその余の事実及び同2、3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  申請人は、本件解雇はあくまでも就業規則四五条一号に該当するとするものであって、同条三号はその理由とされておらず、これを理由とすることは許されないと主張し、本件解雇の「処分通知書」(<証拠略>)にも右一号を理由とする旨の記載があるが、そもそも懲戒解雇、通常解雇のいずれであるかを問わず、特別の合意があるとか、就業規則、労働協約等に特別の定めがある等の特段の事情のない限り解雇につきその理由を示すことが解雇の要件とされているものではなく、したがって、仮に解雇につきその理由が示されたからといって、解雇理由につきこれに拘束されるものではなく、解雇当時客観的に存在した事由をもって解雇理由となし得るものというべきであり、本件については右にいう特段の事情は何ら主張も疎明もなされていないので、被申請人において就業規則四五条一号のほか同条三号所定事由を本件解雇の理由とすることは許されるものというべきであるから、申請人の前記主張は採用し難い。

三  そこで、申請人に就業規則四五条一号、三号所定の懲戒解雇事由があるか否かについて検討する。

(申請人の本件刑事事件=就業規則四五条一号)

1  (証拠略)によれば、次の事実を一応認めることができ、(証拠判断略)、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  申請人は、昭和五四年一月八日午後一一時三〇分頃、東京都港区白金三丁目一番六号飲食店「ふじ」横路上において、飲酒のうえ、酒店経営屋代良助所有の空瓶約三〇本を持ち上げてこれを地面に叩きつけて損壊した(申請人が空瓶約三〇本を持ち上げて割ったことは当事者間に争いがない。)。

(二)  申請人は、前同日午後一一時四〇分頃、前同所において、警ら中の警視庁高輪警察署巡査楠木義之から前記(一)につき職務質問を受けるや、同巡査に対し語気荒く「この野郎そんなの知らねえよ。」と居丈高に否認し、その場を立ち去ろうとしたが、同巡査が後を追い、さらに質問を続けてきたのに対し、大声で「何故、俺が行く必要があるのだ。」などと怒鳴り、いきなり同巡査に右手拳で殴りかかった。同巡査が辛うじてこれを避けると、その制服の襟首をつかみ、同巡査が申請人の手首を押えると、申請人はこれを激しく振りほどこうとして、同巡査が制服上衣右ポケットに携帯中の携帯受令機のイヤホンを引きちぎった。

申請人は、同行していた同僚の金子有之ら二人の説得で辛うじて暴行を止め、前記(一)の現場に戻ったところ、同所にいた付近の喫茶店経営瀬尾英樹夫婦らに対し、語気荒く「お前が見たのか、証拠があるのか。」とくってかかる始末であって、相変らず前記(一)の所為を否認し続けていた。

そこで、同巡査が申請人に対し「止めろ」と制止すると、申請人は、いきなり同巡査に近づき「馬鹿野郎、若いくせに生意気だ。」等と語気荒く申し向けながら、同巡査の左顔面を右手拳で一回殴打し、さらに暴行を加えようとしたが、連れの金子有之ら二人に辛うじて制止された。その間、同巡査には全く挑発的な言動などみられず、むしろ無抵抗に近い紳士的態度であった(この点は当事者間に争いがない。)。

申請人は、同巡査から公務執行妨害の現行犯として逮捕する旨を告げられると、再び「この野郎、お巡り。」と怒鳴りながら同巡査に抵抗しようとしたが、同巡査の要請により現場に到着した警察官二名らに制せられ、同日午後一一時四五分現行犯逮捕され、引き続いて同月一一日勾留され、その結果、申請人は、右楠木巡査に対する左顔面殴打行為により、暴行罪で略式命令を請求され、同月一九日罰金七万円に処せられた(この点も当事者間に争いがない。)。

病院の就業規則四五条が、職員が「刑事事件により罰金刑以上の刑に処せられたとき」(一号)には、例外的に情状酌量の余地(減給、出勤停止又は職階剥奪若しくは職階降下)を認めてはいるものの、原則としては当該職員を懲戒解雇に処する旨規定しており、申請人が本件刑事事件により罰金七万円に処せられたことは当事者間に争いがない。

ところで、かかる就業規則の定めをおくのは、病院の秩序を維持、確保し、もって業務の正常な運営を図るためであるが、他方において右により処分を受ける職員にしてみれば、それが通常解雇であっても極めて重大な不利益であるのに、退職金についても(<証拠略>によれば、本件解雇については退職金を支給しない旨通告している。)、再就職等についてもさらに重大な不利益を受けることの明らかな懲戒解雇を受けるということは、本人のみならずその家族の死活問題にも直結する重大事であるというべきである。右のような就業規則の定めの本旨、懲戒解雇の性格からみると、前記就業規則の定めは、単に四五条一号に形式的に該当するというだけで職員を懲戒解雇することはできず、これをなし得るためには、実質的にも就業規則にかかる定めをおいた趣旨、目的すなわち病院の秩序の維持、確保のためには懲戒解雇という最も苛酷な方法で当該職員を被申請人(病院)の外に排除するほかはないと客観的に首肯し得る程度の悪質かつ重大な非行でなければならないものと解するを相当とする。

本件刑事事件は前認定のとおりであって、申請人の職場(病院医事課)における職務遂行とは時間的にも場所的にも関係のないいわゆる企業外(私生活上の)非行であると認めるを相当とするので、原則として病院の秩序維持、その社会的信用、名誉とは関係がないものといえるが、その非行の性質、態様、これに対する申請人の対応、申請人の病院における地位のほか病院のおかれている立場等を総合的に検討して病院の秩序等に重大な影響を及ぼしたか否かにより本件解雇の適否を決しなければならないものというべきである。

そうだとすると、本件刑事事件に関する前認定の(一)及び(二)の事実関係からは、本件刑事事件により病院の内外に多少の影響があったことは当然のこととして推認するに難くないが、これだけでは、申請人が病院内において外来患者と直接接する業務に従事していたとしても、それは単なる受付業務(カルテの出し入れ等を含むが、これはむしろ対内的なことである。)であること等から、申請人の勤務場所が病院ということを考慮しても、懲戒という最も苛酷な手段で申請人を被申請人(病院)の外に排除しなければ病院の秩序を維持、確保し得ないものということはできず、さらに後記の2及び3についての認定判断を俟ってその後に総合的に判断せざるを得ないものというべきである。

2  (証拠略)及び申請人本人尋問の結果(第一、二回、但し、後に信用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を一応認めることができ、(証拠判断略)、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  申請人が本件刑事事件により昭和五四年一月八日現行犯逮捕され、その後勾留されていたことは前認定のとおりであり、これにより申請人が同月九日から同月一九日までの間、病院を欠勤したことは当事者間に争いがない。

(二)  同年一月九日と翌一〇日の二回、申請人の妻から病院に対し申請人の病気を理由として当日休む旨の電話連絡があった(申請人の妻から右両日に欠勤の連絡があったことは当事者間に争いがない。)だけで、その後同月一九日までの間病院に対し何らの連絡もなかった。そこで、病院としては申請人との連絡がとれないまま、やむなく電報で同月一二日、一三日、一六日、一七日、一八日、一九日の六回にわたり申請人に出勤を促したが、前記の事情で申請人は出勤することができなかった。その後の同月二二日、申請人の同月九日付の同日から同月二〇日までの間私用を理由とする休暇願が郵送されてきた(同休暇願は同月一七日東京中央郵便局において書留郵便物として受領されている。)。なお、申請人は、その後の同月二二日付で病院長宛に同月九日から同月二〇日までの休暇につき休暇願の提出が遅れたことを詫びる趣旨の書面を提出している。

(三)  病院の就業規則はその一九条五項に「年次休暇を得ようとするときは予めその事由を付して本院に提出しなければならない。」との定めをおいている。

(四)  病院では、過去においてやむを得ない理由のある欠勤については、当該職員に有給休暇の日数が残っている場合に限り、病院の裁量によって事後に有給休暇に振り替える措置をある程度認めており、その基準は、欠勤の期間が短いこと、欠勤の理由が明らかであり、病院として振替えを是認し得るものであること、速やかに欠勤の届出がなされていること、平素の勤怠状況が悪くないこと等の総合的判断によって行われていた。

以上(一)ないし(四)の事実関係をみると、申請人が本件刑事事件により逮捕、勾留され、その結果病院での就労ができなかったことはすべて申請人の責に帰すべきことであり、そうだとすれば、申請人においていかに本件刑事事件を病院に知られたくはなかったとしても、それにより、程度の問題はあるにしても、病院の業務の正常な運営が阻害されることは明らかであり、これを病院において受忍しなければならない理由は全くないものというべきであるから、就労義務を負う申請人としては、病院がこれに対応し得るように欠勤の届出(連絡)をなすべき義務を負い、自らはもとより、自らこれをなし得ないときには代理人あるいは使者等によりこれをなすべきもので、その理由はともあれ欠勤の届出(連絡)のなされた九日と一〇日はともかく、その他の欠勤すなわち、一一日から一九日までの欠勤はいずれも無断欠勤といわざるを得ない。

なお、病院においては、従来就業規則の定めとは別に一定の条件を充たす場合においては病院の裁量により事後に有給休暇に振り替える措置をある程度は認めていたものの、申請人が右の条件を充すものと認めるに足りる証拠はないので、この点に関する申請人の主張は採用し難い。

3  (証拠略)によれば、次の事実を一応認めることができ、(証拠判断略)、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  申請人は前記空瓶約三〇本を持ち上げて割った後、警ら中の楠木巡査の姿を見て現場から小走りで立ち去ろうとしたことからみて、申請人が当時相当に酩酊していたとしても意識が全くないといった状態ではなく、すくなくとも空瓶を割ったこと、警察官が近付いてきたこと及び右について警察官から質問を受けることは避けなければならないという認識と判断をなし得る状態であり、これにつき全く記憶がないなどという状況ではなかった。

(二)  申請人は、本件刑事事件については、警察及び検察庁における取調べにおいて終始記憶がない旨供述していて反省がないものとみられていたばかりでなく、病院での上司から前記2の欠勤理由についてその説明を求められても、これに真面目に対応することなく、記憶がないとか、あれこれと虚偽の理由をつけるなど言い逃れて遂に真実を述べないまま本件解雇を受けるに至った(病院に対し申請人が欠勤理由を説明しなかったり、本件刑事事件を否認していたことは当事者間に争いがない。)。

以上(一)及び(二)の事実関係をみると、申請人としては就労先である病院には特に本件刑事事件について知られたくなかったということ、また一般に雇用契約関係にある労働者が使用者に対し欠勤理由を告知すべき義務があるかどうかはともかくとして(使用者の納得の行くような正当な欠勤理由を明らかにしない限り、使用者としては正当な理由のない欠勤として当該労働者を不利益に扱うことは可能である。)、すくなくとも就労先の上司からの質問に対しては真摯な態度で対応すべきであり、ましてや虚偽の事実を理由として述べるようなことは決して許されるものではなく、これにつき厳しい評価を受けてもやむを得ないものというべきである。

4  以上1ないし3によれば、単なる1のみの本件刑事事件であれば、これを理由に本件解雇をなすことが許されないことは前説示のとおりであるが、右2及び3の申請人の態度等をも併せ検討すると、申請人に本件解雇を受けてもやむを得ないような事情が相当に加わっているということができるが、前記のとおり本件解雇が懲戒解雇であって、それが申請人及びその家族に及ぼす重大な結果に思いをいたすと、なお以上1ないし3の事実を理由とする本件解雇を肯定することはできず、他にこれを肯定するに足りる証拠はない。

(申請人の勤務状況等=就業規則四五条三号)

1  (証拠略)によれば、被申請人の主張(四)申請人の勤務状況等(1)申請人の欠勤等の状況(但し、申請人が昭和四八年八月二七日、九月二一日、一〇月五日、二〇日、昭和四九年四月一〇日、一五日、一八日、五月九日、一三日、二一日、二二日、六月三日、一七日、七月八日、八月二六日、九月九日、昭和五〇年七月一四日、八月八日、九日、二三日、二九日、三〇日、九月一日、二七日、二九日、三〇日、一〇月二二日、昭和五一年五月七日、六月一四日、一五日、二八日、二九日、三〇日、七月一日、八日、八月七日、九日、一〇日、一一日、一〇月二七日、昭和五二年六月一日、三日、二七日、一〇月一七日、一八日、昭和五三年三月一七日、六月八日、七月六日、八月一八日、一九日、一〇月一八日、昭和五四年一月六日、二〇日、三月二六日に各欠勤したこと、昭和五〇年一一月四日、七日、一四日、二六日、一二月一日、一〇日、一六日、二七日、昭和五一年一月二四日、二月三日、二〇日、二一日、二三日、二八日、三月一三日、四月五日、一二日、一三日、二三日、八月二〇日、九月六日、一一月五日、八日、一五日、一二月一日、八日、一四日、一六日、昭和五二年一月一一日、二四日、二月一日、一四日、一五日、二四日、三月一日、一七日、二四日、四月七日、五月九日、七月二二日、八月五日、二二日、九月八日、二八日、一一月八日、九日、一〇日、二一日、一二月一日、五日、六日、一九日、二二日、昭和五三年一月五日、一九日、二月六日、二〇日、三月三日、四月一一日、二六日、五月四日、一七日、一八日、六月七日、七月二五日、一一月一日、七日、八日、二七日、一二月一一日、二二日、昭和五四年一月五日、三月一二日、五月一四日、一五日、六月四日、八月七日がいずれも有給休暇として取り扱われていること、昭和五〇年四月一日、二日、三日、五月六日、七日、九日、昭和五一年五月二八日、七月二六日、八月三一日、九月二日、三日、一一月九日、二六日、昭和五二年二月四日、四月二二日、五月六日、一七日、二四日、七月一一日、一五日、九月三〇日、一〇月二〇日、二八日、一二月九日、昭和五三年一月一二日、六月二〇日、七月一〇日、九月一一日、一〇月二三日、一二月二〇日にいずれも職場を離脱したこと、昭和五二年六月二八日、七月三〇日、八月二日、一〇月二〇日、二七日、一一月二六日、一二月九日、昭和五三年三月二七日、七月一八日、昭和五四年六月二五日いずれも早退していること、昭和五一年八月二四日、九月二九日、昭和五二年一月五日、二月二一日、四月二〇日、昭和五三年三月二三日、二四日、二五日、四月一九日、二二日、六月一二日、一一月二四日、昭和五四年一月二八日、四月二五日に各遅刻したこと、昭和五〇年一二月四日、一九日、二〇日、昭和五二年二月一九日、昭和五四年七月七日に各有給休暇を、昭和五一年九月七日、昭和五三年八月一六日、一七日に各夏期休暇をとったことは当事者間に争いがなく、昭和五四年一月九日から同月一九日までの間は申請人が本件刑事事件により逮捕、勾留されていて出勤できなかったことは前記のとおりである。)、(2)有給休暇等請求時の手続の不遵守とたび重なる欠勤、(3)タイムレコーダーの打刻忘れ等(但し、申請人が被申請人主張のとおりタイムレコーダーの打刻忘れ等をしたことは当事者間に争いがない。)、(4)宿直業務無断放棄、(5)コピー用紙の盗用(但し、申請人らが被申請人主張のように病院のコピー用紙を使用したことは当事者間に争いがなく、その後の昭和五〇年一〇月二三日右コピー代金一万三三三五円が病院に支払われていることが認められる。)、(6)院内マイクの無断使用、(7)その他申請人の勤務態度一般の各事実を一応認めることができ、(証拠判断略)、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右1の事実によれば、申請人の勤務状況等は不良というほかはなく、これに対し再三にわたって上司等からの警告、注意等がなされてもなお改善されなかったばかりでなく、逆にこれに反抗するような態度をとっていたことは、申請人の勤務場所が病院でしかもその職務が外来患者の受付というような点等を考慮に入れると前説等の懲戒解雇の結果の重大さを考慮してなお、申請人の右の所為は就業規則四五条三号所定事由に該当するものといわれてもやむを得ないところもなくはないが、結局、右懲戒解雇が申請人に与える結果の重大さと申請人の右所為により病院の秩序、業務等が阻害されたことによる病院の被る不利益とを対比検討すると、未だ懲戒解雇という最も苛酷な手段をもって申請人を被申請人(病院)の外に排除し得るとする就業規則四五条三号 立(ママ)事由に該当するとまでは断定し得ないものというべきである。

3  なお、申請人は無断職場離脱について支部組合の指令による労働委員会や裁判所等への出頭であったことをもってこれを正当化しようとしているが、組合もしくは支部組合と被申請人間に特別の協定等があるか、あるいは申請人と被申請人間に特別の合意でもあれば格別、そうでない限りは、ストライキでもない以上、勤務時間内に無断でその職場を離脱し、就労しないことは雇用契約上の債務不履行であり許されざるものというべきである。

また、申請人はコピー用紙代金の支払をもってコピー用紙の無断使用が治癒されるかのごとき主張もしているが、これが不当であることは自明なところである。

(結論)

以上説示のとおり、被申請人主張の申請人の所為は就業規則四五条一号にも三号にも該当しないものというべく、また申請人の右所為を併せて懲戒解雇に値するというような評価をなすことは右就業規則の規定からみて許されざるものと解するを相当とする。

四 (証拠略)によれば、病院の就業規則は賞罰については賞罰委員会に諮る旨定め(四六条)、その賞罰の制裁としての懲戒処分を譴責、減給、出勤禁止、職階剥奪又は職階降下、懲戒解雇と定めている(四二条)ことが認められ、本件解雇が懲戒解雇としてはその効力を生じ得ないことは前説示のとおりであるから、さらに本件解雇につき賞罰委員会における手続上の瑕疵について判断するまでもなく、本件解雇が懲戒解雇としての効力を有しないものというべきである。

五 以上のとおり、本件解雇は就業規則四五条一号、三号による懲戒解雇としてはその効力を生ずるに由ないものというべきであるが、被申請人としては必ずしも懲戒解雇に固執せず通常解雇としても本件解雇の効力を維持する意思を明らかにしているので、この点について検討する。

1  就業規則一〇条が次のような定めをしていることは当事者間に争いがない。

職員が次に掲げる各号の一に該当する場合は、三〇日前に予告するか又は労働基準法第一二条に規定する平均給料の三〇日分を支給して解雇する。ただし、(以下略)

1、2(略)

3 業務上の諸規程、若しくは指示命令に違反し、職場の秩序を紊したとき

4 (略)

5 勤務成績又は能率が甚だしく不良で就業に適しないと認められたとき

2 (証拠略)によれば次の事実を一応認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

被申請人が申請人に対し本件解雇の意思表示をした昭和五四年八月一三日付「処分通知書」(<証拠略>)には「病院は貴殿に対する解雇予告手当並びに8月分未払い賃金は本日経理課においてお支払い致します」と記載されており、同書面は当日申請人に交付されている。

3 申請人の前記三の1ないし3の所為が就業規則一〇条三号、五号所定事由に該当するものといえることは前記三の1ないし3においてそれぞれ説示しているところから明らかであるというべきであり、右就業規則の規定には何ら不合理なところは存しないものと解するを相当とする。

4 以上1ないし3によれば、就業規則一〇条、労働基準法二〇条一項所定のいわゆる解雇予告手当の支払いは前認定の2をもって足りるものと解するを相当とするので、被申請人の申請人に対する通常解雇の効力は前記「処分通知書」が申請人に交付された昭和五四年八月一三日に生じたものというべきである。

よって、この点についての被申請人の主張は、爾余の点について判断するまでもなく理由があるものというべきである。

六 以上説示のとおり、本件解雇は懲戒解雇としてはその効力を生じ得ないものであるが、通常解雇としては有効なものというべきであるから、結局のところ、本件仮処分申請は、いずれもその被保全権利を欠くこととなり、したがって保全の必要性について判断するまでもなく、既に右の点において理由がないこととなるので、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭)

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